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癒やしか迷惑か 自治会など解決策見通せず
2018年9月29日 11時01分
道端で猫を見かけると、愛くるしい姿に笑みを浮かべる人がいれば、そこが生活空間のため迷惑顔になる人もいる。
その猫は元から野良猫だったのかもしれないし、誰かが育てられなくなった捨て猫かもしれない。
通りすがりなら一瞬考えるだけだが、猫と向き合い続ける人々がいる。その活動や思いを紹介する。
2匹の黒猫と1匹の三毛猫が駆け回る。佐賀市の県営住宅「鍋島団地」(486戸)で、敷地内を縦横無尽に動く野良猫を住民が追い払おうとしていた。
「そこら中にフンをして悪臭がひどい。この前は団地内にとめた車の上によじ登って傷を付けた」。団地に住む村松広明さん(71)はため息をついた。
村松さんや住民によると、鍋島団地で現在確認できる野良猫は、子猫2匹を含む6匹。村松さんが約5年前に入居した時には既にいた。
1階に住む女性(81)が窓を常に少し開けて猫を部屋に入れ、餌をやっており、団地にすみ着いているとしている。
「今は夫も亡くなり私は一人。猫がいると癒やされる」。
女性は15年ほど前、近くで段ボール箱に入って捨てられていた猫4匹に餌を与えた。
猫は部屋に来るようになり、半身不随だった夫が室内で猫と遊ぶようになった。
「生きている命をそのままに放っておけない」と口にするが、飼い猫ではないとする。
過去には不妊去勢手術をしようと考えたこともある。
「市役所に行ったが、個人では飼い猫でないと補助金が出せないと言われ、金銭的な余裕がなく諦めた」と振り返る。
一部の住民は2016年から県に苦情を訴えながら、フンをされるのを防ぐため、
ベランダと地面の間に猫の侵入を防ぐネットを張ったり、車の上に猫よけのマットを置いたりと、自費で対策をしている。
たまりかねた村松さんは県から団地の管理を委託されている管理会社「マベック」(佐賀市)に相談した。
県営住宅ではペットの飼育は禁止されている。入居の際には管理会社がペットを飼えない旨を口頭で説明し、条件を明記した契約書への署名を求める。
ところが、家賃が相場より安く、一定の収入以下という入居条件がある県営住宅は、母子家庭や1人暮らしをする高齢者のよりどころの一つで、
マベックは「寂しさから隠れてペットを飼う人は多い」と指摘する。
「何十匹もいて多大な迷惑がかかっているなどの悪質なケース」にまでならないと強制退去には至らないという。
マベックは女性に対し、何度も住民の苦情を伝えているが、「『野良猫だ』と言われると餌を与えないよう注意を促すことしかできない」と頭を抱える。
村松さんは団地の住民で組織する自治会にも対応を話し合うように持ちかけた。
だが自治会長の東(あずま)武(たけし)さん(75)は「団地内には高齢者の孤独死といった課題が山積みで、猫にまで手が回らない」と、
解決策を話し合う機運は高まっていない。村松さんは「このままでは猫が増え続ける」と危惧を抱いている。
https://mainichi.jp/articles/20180929/k00/00e/040/228000c