地上最強を目指す男たちの戦いを描いた人気格闘漫画「刃牙(バキ)」シリーズで、相撲をテーマにした「バキ道」を連載中の作者・板垣恵介氏(65)が同作に込めた思い、力士のすごさ、描く難しさなどを熱く語った。(取材・構成=竹内 夏紀、大谷 翔太)
主人公・範馬刃牙(はんま・ばき)が地上最強を巡り、数多くの猛者たちとド迫力の死闘を繰り広げる大人気の「刃牙」シリーズ。2018年から始まった第5部「バキ道」のテーマが相撲だ。板垣氏にとっては念願の作品だった。
「ずっと描きたくて、7~8年ぐらい前にはすでに相撲を描きたいと言っていました。力士の本気の“10秒”を何週にわたったとしても濃い密度で描きたい。そういう思いからです」
毎場所15日間、必ず中継を録画するほどの好角家。大横綱に魅了されたのが始まりだった。
「初めて見たのは3歳くらい。大鵬が奇麗な顔をしていたというのを覚えています。引きこまれたのは大人になってからですね。千代の富士が出てきた時は、ほれぼれしました。前みつを取られた力士はまるで全員が諦めているようで、寄りは走るようでした。(体が)小さかっただけにかっこ良かった」
板垣氏が考える大相撲の魅力とは。
「『天才』という言葉はスマートな体形をイメージしますが、大相撲は間違いなく天才集団。『身体のIQ』がむちゃくちゃ高い。あの見た目からは分かりにくいけど、実は天才の集まりなんですよ。面白くないワケがないです」
国体出場経験もある元アマボクサーの板垣氏は、ストリートファイトでは「力士の10秒」こそが最強と力説する。
「格闘技観戦では『(勝つために)どちらがやりたいことをやれたのか』との見方をしてます。人が全力で戦う限界は10~20秒。それで言うと10秒間(の勝負)で力士よりも流儀を通すのは、まず無理。殴られる覚悟で向かってくる力士の全力の10秒を止めることは想像できない。たとえ(世界最大の総合格闘技)UFCのヘビー級だろうが、ですよ。打撃が急所に決まる確率は相当に低い。外れた後にはもうクリンチ、そして路上にたたきつけられます」
漫画家として、力士を描く難しさがあるという。
「筋肉のカットが描けないこと。ボディービルは腹筋とかカットがあるけど、お相撲さんの体は量感と張り、その上で内蔵する筋肉を感じさせないといけない。かっちり絞った体を描くより、ごまかしが利かない。お年寄りの顔を描くより、シワとか年輪というごまかしが利かない赤ん坊の顔を描く方が難しいんです」
多くの格闘家と交流を重ねてきた。中でも横綱・朝青龍には衝撃を受けたという。
「握手した時に『俺の5倍ある』と。現実には2・5倍くらいでしょうが、印象は5倍の重量感でした。これにつかまれたら、何もできないと。あの手で現役最後の2010年初場所、(198センチ、178キロの)把瑠都をつり下げ、土俵半周ぐらい振り回して下手投げや、2メートルを超える琴欧洲をかいなひねりで宙を半回転させて。力士の持つ潜在能力、フィジカルはすごいなと強く実感しましたね」
古今東西の格闘技通が注目する秋場所の力士がいる。朝青龍のおいっ子、新関脇・豊昇龍(23)=立浪=だ。
「顔が良い。風貌(ふうぼう)にすでに闘志がある。(土俵際で)諦めないで何かやろうとする。叔父さんと並ぶところ(横綱)まで、体重と共に来ると思ってます。150キロを超えたら手が付けられなくなりそう。どんどん強くなりますよ」=おわり=
◆取材後記
https://news.yahoo.co.jp/articles/c40156c59a8825488ca6fa2c4f8c9432641ca98b