【北京=原田逸策】米国と中国が北京で開いていた3回目の貿易協議が3日、終わった。協議後に中国は「農業とエネルギーで前向きで具体的な進展があった」との声明を公表。中国が米国産の農産品やエネルギーの輸入拡大策を示し、輸入拡大の条件として米国に追加関税を取り下げるよう求めた。中国は態度を頻繁に変えるトランプ大統領の交渉戦略への警戒感を強めており、トランプ氏の対応が今後の焦点となる。
北京市内のホテルに到着したロス米商務長官(2日)=共同
協議は2〜3日に釣魚台迎賓館で開いた。米国はロス商務長官、中国は習近平(シー・ジンピン)国家主席の側近である劉鶴副首相がそれぞれ交渉団を率いた。
協議後に公表された声明は中国単独のもの。米国側は4日午前0時(日本時間同1時)時点で声明を公表していない。5月中旬の前回協議は米中で共同声明を出した。
前回協議では中国が米国の貿易赤字を減らすため、米国産の農産品とエネルギーの輸入を大幅に増やすことで合意した。今回は輸入拡大の具体策が議論の中心となり、中国は米国産の大豆、牛肉、鶏肉、原油、天然ガス、石炭などの輸入拡大策を示したようだ。ロイター通信によるとロス氏は「協議は友好的かつ率直」と語り、米国も一定の評価をしたようだが、米中ともに輸入拡大策の詳細は公表していない。
中国の声明は「米国が追加関税を含む貿易制裁を出せば、合意は効力を失う」とトランプ氏への強い不信感をにじませた。米中は前回協議で「追加関税を当面かけ合わない」ことで折り合ったが、トランプ氏は5月29日に態度を翻し、突如「6月15日までに対中国の制裁関税の最終候補品目を公表」と発表した経緯がある。中国共産党系の環球時報(電子版)は3日の社説で「米国には依然として政策のブレと不確実性がある」と指摘した。
トランプ氏の変わり身の背景には北朝鮮問題の進展がありそうだ。中国を通さずに北朝鮮と直接、対話を進められる環境が整い、貿易交渉では中国に圧力をかけやすくなったと判断したとみられる。トランプ氏も「中国と貿易を話すときはいつも北朝鮮のことを考える」と話している。6月12日の米朝首脳会談に向けて北朝鮮問題がどうなるかがトランプ氏の判断にも影響しそうだ。
中国は国有通信機器大手、中興通訊(ZTE)への制裁緩和も求めた可能性がある。ZTEは米国による制裁で米企業との取引が禁止され、基幹部品を調達できずに経営難に陥っている。ロス氏は制裁を出した商務省のトップだ。トランプ政権は巨額の罰金や米国から法令順守担当者を送り込むことを条件に制裁を緩める方針を中国に伝えているが、米議会との調整が難航している。
一方、米中摩擦の根源にあるハイテク分野の覇権争いや知的財産の保護は、今回は突っ込んだ議論がされなかったようだ。声明も輸入拡大策以外のテーマにほとんど言及していない。協議時間も2日午後と3日午前だけと短かった。
これまで2回の協議はムニューシン財務長官とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表も参加していたが今回はロス氏だけ。巨額の補助金を投入して半導体や人工知能(AI)を育成する中国の産業政策はライトハイザー氏が主に批判している。中国もハイテク分野ではまったく譲歩するつもりがない。仮に貿易赤字の一部解消で進展があっても、幅広い意味での米中貿易摩擦問題は長期化しそうだ。
(スレ立て依頼から)
2018/6/3 18:13
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31313100T00C18A6FF8000/