この日は晴天で、司令部の附近の草むらではしきりに小鳥の声がしていた。
ここでも幕僚の二、三が、この出撃を思い止まれないかと繰り返してみたが、中将は笑ってこれをしりぞけ、
すぐさま自動車で飛行場に向かった。
飛行場は滑走路だけ残して夏草でいっぱいだった。その夏草を吹き千切るように出撃してゆく彗星が試運転の
爆音をひびかせている。
数えてみると九機ある。
中将は小首を傾げて指揮所の前に立った。十八名の搭乗員が日の丸の鉢巻姿で整列して中将を迎えた。
「指揮官! 命令は五機のはずなのだが……」
すると、この七百一空の派遣指揮官伊藤大尉は、頬を真っ赤にして怒鳴るような声で答えた。
「長官が直接特攻をかけられるというのに、たった五機で出すという法がありますかッ。私の隊は全機でお供
いたします!」
一瞬、黄金仮面と綽名された中将の顔は硬ばった。
まさに統帥の根源は人格であったのだ。
まだ停戦命令こそは出ていなかったが、すでにご放送のあと……生が最大の執着ならば、あり得ない事態が
眼の前に起こっている。
「そうか……皆、私と一緒に行ってくれるか」
「はいッ……」
十八人の若者たちは、間髪を入れず、声を揃えて右手をあげた。
これもまた日本ならではあり得ないことであったろう。
「ありがとう」
黄金仮面には深い感動の微笑がきざまれ、それから一人ずつ握手してまわって機上の人となった。