ソフトバンク元社員が楽天モバイルへの転職直前に秘密情報を持ち出し、このほど有罪判決を受けた。さらに「かっぱ寿司」運営会社の社長が以前在職していた「はま寿司」の情報を不正に持ち出し逮捕されるなど、大手企業の情報合戦が世間の注目を集めている。こういった動きは、なぜ止まらないのだろうか。
■ソフトバンク元社員には執行猶予付きの有罪判決
ソフトバンク元社員は競合の楽天モバイルに転職するにあたり、5Gなどソフトバンクの機密情報を不正に持ち出したとして、2021年1月に不正競争防止法違反容疑で逮捕された。東京地裁は起訴後の2022年12月に、執行猶予4年付きの懲役2年、罰金100万円の有罪判決を言い渡した。
判決では、ソフトバンクが長年にわたり構築してきた4Gや5G用の基地局設備や固定通信網に関する技術情報が、営業秘密に該当すると指摘。それらの情報を故意に持ち出したことは悪質との判断だった。
元社員は楽天モバイルへの転職が決まった時ときからソフトバンクを退職するまでの約１かヵ月間に、ソフトバンクが有する多数の電子ファイルを複数回にわたりクラウドにアップするなどによって入手。本人が使っていたパソコンを退職後に同社が確認し、大量の秘密情報持ち出しが発覚した。
ソフトバンクは2021年5月に楽天モバイルと元社員に対し、「約1,000億円の損害賠償請求権の一部」として10億円の支払い等などを求める民事訴訟を東京地裁へ提起した。
訴状では、同社の営業秘密だった電子ファイルが、楽天モバイルが業務上利用するサーバー内に保存され、複数の社員にも開示されていると指摘。楽天モバイルはソフトバンクの営業秘密をすでに利用している可能性が高く、不正競争により同社の利益を侵害したとしている。元社員については、入社時に機密情報を第三者に開示・漏洩えいしないことを記載した秘密保持誓約書を提出し、さらに退職時にも誓約したという。
■かっぱ寿司親会社の社長も逮捕・起訴
2022年9月には、大手回転寿司チェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長が逮捕されるという衝撃のニュースが報道された。以前取締役だったライバル会社ゼンショーホールディングスが運営する「はま寿司」の秘密情報を不正に持ち出したという、やはり不正競争防止法違反の容疑だった。
はま寿司が保有する商品原価や取引先の情報を容疑者が不正取得したとされるのは、カッパ・クリエイトに転職する直前の20年９9月から11月頃。同社に移りすぐに社長に就任し、持ち出したデータを社内の複数の幹部で共有していた。競合他社のデータを組織的に不正利用していたとみて、東京地検は2022年10月に社長だった容疑者とカッパ・クリエイトの幹部社員、さらに法人として同社の起訴に踏み切った。
ソフトバンクやかっぱ寿司の事件に似たものでは、スポーツメーカーのアシックスの元社員が競合他社に転職する際に靴の性能データを不正に持ち出したとして、2019年に不正競争防止法違反容疑で逮捕された事例がある。
■まとめ
こういった情報合戦が止まらない背景には、携帯電話キャリアによる回線・基地局をめぐる過酷な競争や、回転寿司チェーンのしのぎを削る価格競争などがあるようだ。大手企業といえども生き残りに必死なため、競合より少しでも優位に立とうという意識がいびつな形で現れたといえよう。
ただ、このような持ち出しが、コンプライアンスが整備・順守されているはずの大手企業で起きたということについては驚きを隠せない。不正入手したとしか思えない秘密情報を転職先企業が活用しようとしたことは常識的にはありえない行動で、確信犯ではないかという疑惑を持たれても不思議はないだろう。
執筆/渡辺友絵
https://moneytimes.jp/archives/189181
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