アニメ作品の舞台をファンが旅する「聖地巡礼」を、観光に活かす取り組みが進んでいる。特にコロナ禍前は海外からの訪日観光客にも人気で、海外のアニメファンに向けた国内「聖地」の観光ルート作りが求められていた。
こうした動きを受けて2018年以降アニメツーリズム協会が発表しているのが、16日に2023年版が発表された「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」だ。選ばれた全88作品のうち、今年放送の人気アニメ『リコリス・リコイル』(東京都墨田区)や『であいもん』(京都市)、『サマータイムレンダ』(和歌山市)など9作品が新たに認定された。
2023年版では、6月1日から9月30日にかけ、全世界に向けたWeb投票と、日本全国約160カ所に設置された投票箱によるユーザー投票を実施。その結果の上位作品をもとに、権利者や地方自治体関係者と協議を行い選ばれた。今年の総投票数は過去最多となる11万2438票におよんだという。
『艦隊これくしょん』のように、一つの作品でも、複数の場所で「聖地」となっている場合や、東京都世田谷区の長谷川町子記念館や鳥取県境港市の水木しげるロードのように、施設が選ばれている場合もある。選定された自治体数は全国117自治体にのぼり、16日に実施された発表会では、新たな「聖地」として認定された自治体職員に対し、『ガンダム』の生みの親で知られる富野由悠季会長が認定証を手渡す姿もみられた。
発表会の最後には、株式会社KADOKAWAの上級顧問を務め、新たに副理事長に就任した井上伸一郎氏が登壇。「自分は『聖地巡礼』で社会的な注目を浴びた『らき☆すた』に関わっており、アニメツーリズムの応援をその後もさせていただいてきた。コロナ禍の間、日本のアニメの映像発信力が世界中で強まっている。ようやく国を超えた旅行が世界的に再開してきており、2023年はアニメツーリズムがいよいよ本領発揮する時だと考えている」と挨拶した。
■『すずめの戸締まり』が外れた背景
一方で、人気作品にもかかわらず、「アニメ聖地88」から漏れた作品も多くある。今年の作品で言えば、現在劇場公開中の新海誠作品『すずめの戸締まり』や、人気漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」の劇場版『THE FIRST SLAM DUNK』がその好例だろう。『すずめの戸締まり』では宮崎県や愛媛県、神戸市や東北の三陸沿岸がモデルとなっており、『スラムダンク』では神奈川県藤沢市の江ノ島周辺が舞台になっている。
にもかかわらず「アニメ聖地88」に入っていないのは、ファンの人気投票で上位に入ったとしても、「権利者や地方自治体関係者と協議」する過程で外れてしまうケースが多々あるためだ。
外れてしまう理由の多くは、作品の舞台を特定させ、さらに「聖地」と言い切ってしまう取り組みに主に版元が賛同できないというものだ。例えばスタジオジブリ作品などでは、一つひとつの建物などのモデルは確かにあるものの、描かれている世界そのものはあくまで架空のものであり、実在するものとは関係がない姿勢を貫いている。ファンが日本各地で「聖地巡礼」している『鬼滅の刃』など、ジャンプ作品の多くも同様の理由で舞台地を「公認」していない。
これは、ディズニーのシンデレラ城のモデルとされているお城がヨーロッパ各地にあり、またジブリの『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルが一つに絞りきれず、日本各地や海外にもあることを考えると事情を理解しやすいかもしれない。
また、限りなく実在する場所や施設がモデルになっている場合であっても、作品の世界観やブランドを守るために製作側が公認していないケースもある。
一方でこうした状況にも変化のきざしがある。例えば今回和歌山市で初選出となった『サマータイムレンダ』は、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載されていた作品であるが、今年3月にヒロインの小舟潮が「和歌山市アニメ観光大使」に就任した。こうした動きを受けて『サマータイムレンダ』が今回選ばれたとみられる。ジャンプ作品が「アニメ聖地88」に選ばれたのは異例のことだ。
このように版元側の姿勢が年と共に緩和している傾向もある。作品の舞台を「聖地」として盛り上げていく動きは来年以降も進んでいくことだろう。
東京ヘッドライン
2022.12.19
https://www.tokyoheadline.com/666335/
こうした動きを受けて2018年以降アニメツーリズム協会が発表しているのが、16日に2023年版が発表された「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」だ。選ばれた全88作品のうち、今年放送の人気アニメ『リコリス・リコイル』(東京都墨田区)や『であいもん』(京都市)、『サマータイムレンダ』(和歌山市)など9作品が新たに認定された。
2023年版では、6月1日から9月30日にかけ、全世界に向けたWeb投票と、日本全国約160カ所に設置された投票箱によるユーザー投票を実施。その結果の上位作品をもとに、権利者や地方自治体関係者と協議を行い選ばれた。今年の総投票数は過去最多となる11万2438票におよんだという。
『艦隊これくしょん』のように、一つの作品でも、複数の場所で「聖地」となっている場合や、東京都世田谷区の長谷川町子記念館や鳥取県境港市の水木しげるロードのように、施設が選ばれている場合もある。選定された自治体数は全国117自治体にのぼり、16日に実施された発表会では、新たな「聖地」として認定された自治体職員に対し、『ガンダム』の生みの親で知られる富野由悠季会長が認定証を手渡す姿もみられた。
発表会の最後には、株式会社KADOKAWAの上級顧問を務め、新たに副理事長に就任した井上伸一郎氏が登壇。「自分は『聖地巡礼』で社会的な注目を浴びた『らき☆すた』に関わっており、アニメツーリズムの応援をその後もさせていただいてきた。コロナ禍の間、日本のアニメの映像発信力が世界中で強まっている。ようやく国を超えた旅行が世界的に再開してきており、2023年はアニメツーリズムがいよいよ本領発揮する時だと考えている」と挨拶した。
■『すずめの戸締まり』が外れた背景
一方で、人気作品にもかかわらず、「アニメ聖地88」から漏れた作品も多くある。今年の作品で言えば、現在劇場公開中の新海誠作品『すずめの戸締まり』や、人気漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」の劇場版『THE FIRST SLAM DUNK』がその好例だろう。『すずめの戸締まり』では宮崎県や愛媛県、神戸市や東北の三陸沿岸がモデルとなっており、『スラムダンク』では神奈川県藤沢市の江ノ島周辺が舞台になっている。
にもかかわらず「アニメ聖地88」に入っていないのは、ファンの人気投票で上位に入ったとしても、「権利者や地方自治体関係者と協議」する過程で外れてしまうケースが多々あるためだ。
外れてしまう理由の多くは、作品の舞台を特定させ、さらに「聖地」と言い切ってしまう取り組みに主に版元が賛同できないというものだ。例えばスタジオジブリ作品などでは、一つひとつの建物などのモデルは確かにあるものの、描かれている世界そのものはあくまで架空のものであり、実在するものとは関係がない姿勢を貫いている。ファンが日本各地で「聖地巡礼」している『鬼滅の刃』など、ジャンプ作品の多くも同様の理由で舞台地を「公認」していない。
これは、ディズニーのシンデレラ城のモデルとされているお城がヨーロッパ各地にあり、またジブリの『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルが一つに絞りきれず、日本各地や海外にもあることを考えると事情を理解しやすいかもしれない。
また、限りなく実在する場所や施設がモデルになっている場合であっても、作品の世界観やブランドを守るために製作側が公認していないケースもある。
一方でこうした状況にも変化のきざしがある。例えば今回和歌山市で初選出となった『サマータイムレンダ』は、マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載されていた作品であるが、今年3月にヒロインの小舟潮が「和歌山市アニメ観光大使」に就任した。こうした動きを受けて『サマータイムレンダ』が今回選ばれたとみられる。ジャンプ作品が「アニメ聖地88」に選ばれたのは異例のことだ。
このように版元側の姿勢が年と共に緩和している傾向もある。作品の舞台を「聖地」として盛り上げていく動きは来年以降も進んでいくことだろう。
東京ヘッドライン
2022.12.19
https://www.tokyoheadline.com/666335/