チラシに躍る豆腐1円の文字。大阪市西成区のスーパー玉出から出てきた主婦は「週に2、3回買い物に来る。安くて助かる」と話す。
1981年からこの地で商いを続ける前田託次社長は「安く売らんことにはお客さんは喜んでくれへん。1円が貨幣の最低価格やから1円セールを始めた」と言う。
1円セールを契機に他のスーパーも価格競争になり、「お客さんも玉出のおかげと喜ぶ。ならどんどん出店せなあかん」と47店舗を展開。5年で100店舗を目指す。「大阪は昔ながらの商人の街、物価はなかなか簡単に上がらへん」と語る。
総務省の調査によると、消費者物価指数は最も高い東京都に比べ、大阪府はほぼ全国平均と同水準で推移。食料などの寄与度が全体を押し下げている。
心斎橋筋商店街の前田雅久振興組合局長は「安くておいしいで、何で悪いねん」と言う。
客とのやり取りの中で値引きを持ち出すのは大阪では当たり前。たこ焼きだったら1個おまけをつける。「それで固定客になるのであれば安いものだ」と語る。
日本銀行の黒田東彦総裁は物価が上がりにくい背景について、長年続いたデフレ心理が「企業や家計にかなり強く存在している」と説明するが、大阪ではデフレ脱却などどこ吹く風の商人魂が根付いている。
「大阪には無駄にしない文化が根付いている。目立ってなんぼやという文化もある。あと、おもろなかったらあかん」
自販機運営卸業「大阪地卵」の釜坂晃司社長は、10円では利益は出ないが、宣伝効果と、賞味期限が迫った商品をさばける利点を挙げる。
1000ケースを廃棄すれば運賃込みで約60万円かかるが、10円で売れば30万円の売り上げとなり利益につながる。
衛藤公洋日銀大阪支店長は「売れ残りを値を付けて売った方がいいという発想で、大阪の商人文化そのものだ」とみる。
「商品の需給を反映して、定価で売れなくなったものを安く売っている」のであり、「ただの安値好き、デフレ志向とは違う」と分析。「すごくエコな世界」との見方を示す。
「日本が大阪化するかも」元日銀大阪支店長の早川英男富士通総研エグゼクティブフェローは「大阪は口コミの流通速度が圧倒的に速く、味がよくなければ店はすぐ倒産する」と指摘。
インターネットの影響で安くてお得な情報が瞬く間に全国に広がり、デフレがはびこる一因になっているとの見方を示した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-10-25/OXWFAF6JTSE901