http://diamond.jp/articles/-/154431
中国でスマホを紛失したら、どれだけ恐ろしい事態になるか
空港トイレにスマホ水没
焦りまくる筆者
2017年11月――。中国・北京首都空港、日本行きの国際線出発ゲートで、私の心は期待にあふれていた。今、日本では中国のスマホ決済についての報道が増えているらしい。ここは北京在住17年の私もまた書くべきであろう。
しかし、実際に利用者のスマホを見ないと、その便利さの本当の意味はわからない。
つまり、スマホから100円でもそのまま高利率のファンドに簡単に預けられるとか(外国人は不可)、あらゆるレンタル、予約、配達サービスにつながるとか…つい先ほども空港内で、日本で使うWi-Fi設備を借りたばかりだ。
これも予約しておいた業者のタブレットを、自分のスマホでピッとすればすべて終了である。デポジットの500元(約1万円)も、私のスマホの微信支付(ウイチャット・ペイ)から自動的に支払われる。
この過程に紙はもう一枚もない。受け取りの記録もスマホの中である。
私が中国のスマホを操作しつつ、日本の編集者さんに説明をすれば「さすがです。ぜひご執筆を!」となるだろう。冷静な判断とワールドワイドな見聞に支えられた高い見識、
(私ってば、もしかして国際ジャーナリストってやつ?)
にやけつつ、トイレに入った。
服は、厳寒の北京とまだ秋の東京に合わせて薄いダウンとコートの二枚重ねである。なんか、プロって感じ?と、コートをフックに掛けたその瞬間、
ボッチャーン!
ポケットからスマホが、便器の中にすべり落ちた。しかもその衝撃で、フタが外れ中身がどっぷり水に使っている。
慌てて水中から取り出した。が、スマホはどう見ても死んでいる。ていうか、これを日本の編集部で出すと、国際ジャーナリストどころか、“コ臭いジャーナリスト”ではないか。
それにさっきスマホでピッ、で払ったデポジットはどうなるんだ。
中国、進んでますのよ、の先進気取りが、突然「え、保証金を取るなら、ハンコのついた紙をちゃんとよこさんかい!」、という昭和の大阪のおっちゃんになる。
しかもつい先ほど、仲良しの中国人の友達から、「親が危篤なの、連絡して」という微信のメッセージを受け取ったばかり。
知らない電話番号にはもう出ない中国人
スマホは完全に死んでますます焦る
幸い、出発ロビーには、タッチパネル式の電話機があった。北京市の交通カードで電話できるようで飛びついたが、
(電話番号がわからない……)
パスポートの写真だけは万一を考えて日本のクラウドにアップしてあるが、すべての情報はスマホの中。
しかし、人間の脳みそは素晴らしい。切羽詰まるとなんと思い出した。そして誰ももう使わない壊れかけた電話機の、複雑な操作と闘いながら、トライ10回目ぐらいにつながった。
……しかし、出ない。
実は今、中国では知らない番号からの電話には、出ない人が増えているのである。
なぜかというと、とにかくセールス電話が凄いからである。ネットでの買い物、送り状に電話番号が記載されたまま捨てた段ボール
会員登録、ホテルの宿泊……、あらゆるところで個人情報が売り飛ばされ、結果、日に何度も「別荘を買わないか」「ローンは必要ですか?」「部屋を貸しますか、借りますか、売りますか……」という電話がかかってくる。
それに一度でも出ると、その電話番号は「生きている」と見なされ、さらに転売されてしまう。
今たいていのことは微信(ウイチャット 中国のLINE的なSNS)で済むし、両者が登録済みであれば電話と同じ音声通話もできる。音声メッセージだって送れる。
「中国はまだ字が読めない人がかなりいますから、こういうサービスもついているんですね」と、したり顔のコメンテーターになる気はまったくないが(音声メッセージは
字の入力を面倒がる人が多いのとスピード、歩きながらでも吹き込める、それと検閲避けで需要が多い)、イノベーションで通信習慣も変化しているのである。
人にもよるが、こういう空港の公衆電話からの怪しい番号にはまず出ない。
手元の水没スマホを見た。
「日本に到着して、よく乾かしてから電源を入れれば大丈夫、ほら、パソコンのマザーボードだって水洗いできるじゃない、よく乾かすのよ、それがポイント……」、とさっきまで本当にそう思っていたのに、なぜか、電源を入れてしまった。
スマホはブルッと振動したかと思うと、一瞬、画面が明るくなり、「やった!」と思ったとたんに明らかにショート。本格的に壊れた。
その後、飛行機の座席でバッグが熱くなっているのに気がつき、慌ててスマホの電池を抜いた。