https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64041?site=nli
|"経済的な死者"を増やさないことが重要
通常のインフルエンザでは世界で毎年数十万人の人が亡くなるが、それでも経済活動の制限は特別に行わない。
それは、インフルエンザによって失うものよりも、経済活動を制限することによって失うもののほうが大きいからである。
新型コロナウィルス感染症による死者は現時点で約1万3千人(3/22時点)だが、世界各国が渡航制限、移動制限、店舗閉鎖、イベント中止など
経済活動の大幅な制限に踏み切ったのは、そうしなければ経済の悪化によって失うものよりも、感染拡大によって失うもののほうが大きいと判断したためと考えられる。
したがって、新型コロナウィルス感染症に対する経済対策は、経済活動の収縮による損失を可能な限り小さくすることに重点を置くべきだ。
新型コロナウィルスの感染拡大による死者を減らすことが出来たとしても、経済的な死者をそれ以上に増やしてしまえば、新型コロナウィルスとの闘いに負けたことになる。
失業者数と自殺者数(原因・動機別)の関係
ここでいう経済的な死者とは、失業などの経済問題を理由とした自殺者のことである。失業者数と自殺者数、とりわけ経済・生活問題を原因とした自殺者数には強い相関関係がある。
日本の自殺者数のピークは2003年の34,427人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は8,897人)だが、その時期は失業者数のピーク(2002年の359万人)とほぼ一致している。
その後、自殺者はリーマン・ショック後の2009年にいったん増加したが、2010年以降は雇用情勢の改善に伴う失業者の減少とともに10年連続で減少し、
2019年には20,169人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は3,395人)となった。
今後、景気の急速な悪化によって、失業者、自殺者が急増するリスクがあり、これを防止することを今回の経済対策の柱とすべきである。
|通常の経済対策とは違う
失業者、自殺者を増やさないために必要なことは、言うまでもなく企業の倒産を防ぐことだ。通常の経済対策は、景気悪化によって落ち込んだ需要を喚起することに重点が置かれる。
しかし、現在は政府が感染拡大を防ぐために人為的に需要を抑えているという極めて特殊な状況にある。
所得税、消費税の減税や給付金の支給は通常の景気後退期であれば消費押し上げ効果が期待できるが、消費の場が失われたままでは意味をなさないだろう。
生活必需品に対する支出はある程度増えるかもしれないが、現在需要が急減しているのは外食、旅行、娯楽などの選択的支出であり、問題の解決にはならない。
実は、急速に落ち込んでいる需要を喚起するために特別な経済対策は必要ない。政府が終息宣言をし、自粛要請を解除するだけで経済活動は元の状態に戻る。
しかし、現状は感染拡大を防ぐために自粛要請を続けているのだから、その間は需要の拡大を諦めるしかない。