
https://digital.asahi.com/sp/articles/ASL8X4DWSL8XUBQU00N.html
保険適用になった性別適合手術 ホルモン療法と併用は?
体の性と心の性が一致しない「性同一性障害(GID)」の治療として、子宮や精巣を摘出するなどの性別適合手術が、4月から公的医療保険の対象となった。しかし自由診療のホルモン療法と併用すると、保険が効かなくなる。専門家からはホルモン療法にも保険適用を求める声が出ている。
性別適合手術が保険対象になったの?
四国に住む飲食店店長(38)は、女性という性別に違和感を持ちながら生活してきた。ただ、家族が理解してくれるのを待ち、治療はして来なかった。女性の制服を着る職業を避けるなど、できるだけストレスがかからないように暮らしてきた。
だが、「40歳を前に、このまま治療せず後悔したくない」。性ホルモン製剤を使い、心の性に体の性を近づけるホルモン療法を始めると昨年、決めた。
いざ治療を開始しようとしたとき、2018年度から性別適合手術が保険適用になると知った。ただし、ホルモン療法は自由診療のまま。ホルモン療法を受けてしまうと、保険診療と自由診療を併用する「混合診療」となり、手術代も自己負担になってしまう、と医師から聞かされた。
このため、ホルモン療法は後回しにし、岡山大病院で8月中旬、まず保険が効く乳房切除手術から受けた。保険適用によって約60万円の費用は約20万円に抑えられた。胸を押さえつける服を着る必要もなくなり、「これで自信が持てるかな」。今後、ホルモン療法を始めるという。
法務省などによると、これまでに国内で戸籍上の性別を変えた人は約7千人。半数以上はタイなど国外で性別適合手術を受けたと見込まれている。
今年4月から、手術件数や専門医の在籍などの条件を満たし、GID学会が認定する医療機関で、保険適用の手術が受けられるようになった。同学会によると、岡山大病院のほか、山梨大病院、光生病院(岡山市)が対象。近く認定される病院も数カ所あるという。
ただし、すでにホルモン療法を受けている人が大半とみられ、冒頭の店長のように保険が効くケースはごく一部の人に限られる。
岡山大の難波祐三郎・ジェンダーセンター長(形成外科)によると、卵巣や精巣をとったり、膣(ちつ)や陰茎をつくったりする手術では、手術後に継続的に使うことになる性ホルモン製剤によって、副作用などの問題が起きないか、あらかじめ使ってみて調べることが一般的。混合診療になってしまい、手術に保険が効かなくなるという。
同学会理事長で岡山大の中塚幹也教授(産婦人科)は「引き続き、ホルモン療法の保険適用に向けても訴えていきたい」と話す。
WHOは精神疾患から除外
世界保健機関(WHO)の分類ではこれまで、性同一性障害は「精神疾患」に含まれていた。だが、6月に公表された新たな分類案では、精神疾患から外れ、名称も変更。日本語での呼び方として「性別不合」という案が出ている。新たな分類案は来年5月のWHO総会で正式決定される。
大阪医科大の康純・准教授(精神神経科)は「(病気というより)多様性の一つという世界的な流れに沿った変更で、(正式決定されれば)国内のガイドラインの見直しも検討する必要があるだろう」と話す。
国内のガイドラインは精神科医が中心の日本精神神経学会が定めている。現在は、「体の性」を泌尿器科医か産婦人科医が決定し、「心の性」を2人の精神科医が決定。体と心の性が一致していないことを確認して診断が確定する。
康さんは「一定の知識があれば、精神科医以外でも(心の性を)診断できる。ただし、統合失調症による性転換妄想などとの違いなど、専門的な判断には精神科医が必要だ」と語る。
いったん性別適合手術をすれば、「後戻り」できないため、これまで通り精神科医の厳密な診断を求める声もある。