子どものころに実の父親から繰り返し受けた性的虐待。その後遺症に苦しむ広島市の女性が40代になって父親の責任を問う民事裁判を起こしていましたが、
広島地方裁判所は性的虐待の事実を認定しながらも「提訴が遅い」として訴えを退けました。
訴えていたのは広島市に住む40代の女性です。
保育園のころから中学2年になるまで実の父親から性的虐待を繰り返され、当時の記憶を思い出す「フラッシュバック」などの後遺症に苦しんでいると主張して、
おととし、父親に損害賠償を求める民事裁判を起こしていました。
これまでの裁判で、父親側は性的な行為をしたことは認める一方で、時間の経過によって女性が賠償請求できる権利は消滅していると主張していました。
26日の判決で、広島地方裁判所の大濱寿美裁判長は父親による性的虐待の事実や女性の被害を認定しました。
しかし、10代後半には精神的苦痛を受けていたとして遅くとも20歳になったときから20年が経過した提訴前の時点で賠償請求できる権利が消滅したとする判断を示しました。
女性は「魂の殺人」とも言われる性被害の加害者が父親で、早い時期に提訴することは不可能だったと訴えていましたが、
大濱裁判長は「本件の特殊事情を考慮しても父親が権利の消滅を主張することが信義則に反するとはいえない」と述べ、提訴が遅かったことを理由に訴えを退けました。
判決のあとの記者会見で、原告の女性は「被害を受けて訴え出たのに、あきれる判決で理解できず受け止められません。
法律で定められた期間が終わりましたと言われても被害者は一生被害者で、制度が変わったほうがいいと思います」と述べました。
原告の弁護士は「性被害は長期間苦しむもので、訴えること自体が非常に難しく自尊心が踏みにじられる経験だ。
世の中には声をあげられない被害者がたくさんいて、今回の原告のように何とか立ち上がって苦しみの原因と戦っても法律の壁がある。
社会的に性被害の実態がきちんと理解されていないということだと思う」と述べ、控訴する考えを明らかにしました。
◆原告の女性の思い
「父親に性的行為をされることはおかしい、嫌だって思ってても逆らうことできんし。なんでこんな苦しい思いをして私は生きていかなくちゃいけないのかなって」
実の父親を相手に裁判を起こした原告の女性のことばです。
父親から性的虐待を受けてきたといいます。
おぼろげに記憶しているのは保育園に通っていたころ父親のひざの上でアダルトビデオを見せられ、体を触られていたことです。
父親は徐々にエスカレートし、小学4年生のころには性行為を強いられたといいます。
違和感や嫌悪感を感じながらも、自分のされていることの意味を理解できませんでした。
「なんかおかしいなっていうのはわかるけど、幼くて考えられない」
女性は中学2年になって、やっと父親を拒否するようになりました。
しかし、母親は病気がちで頼ることはできず、周りに被害を訴えることもできなかったといいます。
40代になり、被害の記憶がフラッシュバックし、生活や仕事に支障を来すようになりました。
「思いだして、その悔しさ、怒りとかで、じっとしていられないんですね。このつらさが我慢できなくて、もう、このままじゃ生きていけないなって思ったんですよ」
性的虐待をめぐって娘が父親を訴えた異例の裁判。
女性は父親に心からの反省を求めるとともに被害の苦しみを社会に知ってもらいたいと提訴した思いを語っています。
「同じようなことを受けて声を上げられない人、たくさんいるので、それを変えていかないと」